糖尿病とは
糖尿病とは、インスリン作用不足による慢性高血糖を主徴とする代謝症候群です。自覚症状のない場合が多く、しばしば血液検査で得られた血糖値とHbA1cから診断されます。
これらの検査値に関する基準は以下の通りです。
①血糖値:早朝空腹時血糖値が126mg/dL以上、または75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)2時間値が200mg/dL以上、または随時血糖値が200mg/dL以上
②HbA1c:6.5%以上
- ①と②がともに当てはまる場合は糖尿病と診断されます。①もしくは②のみ該当する場合は「糖尿病型」と判定され、もう一度検査を行います。再検査の結果も「糖尿病型」となれば糖尿病と診断されることになります。なお、HbA1cのみの反復検査では糖尿病と診断しません。また、糖尿病の典型的な症状や確実な糖尿病性網膜症を認める場合には①のみを満たしていれば初回の診察で糖尿病と診断します。
糖尿病の種類
ブドウ糖はエネルギーの基質として、血流にのって各臓器に運ばれ、細胞に取り込まれます。その際には膵臓から分泌されるインスリン(ホルモンの一種)の働きが欠かせませんが、何らかの理由でインスリンの作用が不足することがあります。インスリン作用が不足すると、ブドウ糖は細胞に取り込まれず血液中で滞り、慢性的に血糖値は上昇します。これが糖尿病の状態ですが、大きく2つに分類されます。
ひとつは1型糖尿病です。これは主に自己免疫反応によって、インスリンを産生する膵臓のβ細胞が破壊されてしまうことでインスリンが分泌されなくなる病気です。もうひとつは、日本人の糖尿病患者の9割以上を占めるとされる2型糖尿病です。2型糖尿病は、糖尿病になりやすい体質(遺伝素因)と、ある種の生活習慣(過食、運動不足、喫煙、飲酒、ストレス 等、環境因子)が原因と考えられています。また、2型糖尿病の病態では、膵臓からのインスリンの分泌が不足している状態、あるいは肝臓や骨格筋、脂肪組織におけるインスリンの作用が十分でない状態(インスリン抵抗性)のいずれか、または両方が重要と考えられています。
上記以外では、糖尿病以外の病気、あるいは薬剤の影響等によって発症する糖尿病(その他の特定の機序、疾患によるもの)があります。また、妊娠中の女性では、胎盤から分泌されるホルモンにより、インスリンが効きにくくなって高血糖状態になってしまう妊娠糖尿病という状態もあります。
糖尿病の症状と合併症
糖尿病は自覚症状が出にくい病気です。ただし、高血糖が顕著なときには口渇、多飲、多尿、体重減少が出現することもあります。それでも高血糖が続けば、活性酸素などによって血管が傷害され、やがて血管障害がみられるようになります。
とくに細小血管が多く集まる、網膜、腎臓、末梢神経で起きやすく、これらは細小血管障害(網膜症、腎症、神経障害)と呼ばれ、これがいわゆる糖尿病の三大合併症です。一方、太い血管では動脈硬化を進み、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳血管障害(脳梗塞等)などの発症リスクも高まります。このことに関連し、脂質異常症と高血圧の治療目標は非糖尿病患者さんと比べると糖尿病患者さんでやや厳格になっています。
最近では、がんや認知症も糖尿病でリスクが上昇することが知られるようになってきて、糖尿病の治療意義の理解が進んでいます。
糖尿病の治療
1型糖尿病では、体内でインスリンが分泌されませんので、体外から人工的に合成したインスリンを補充しなければなりません。インスリン製剤は消化酵素による分解に耐えられませんから、経口薬ではなく皮下注射で補います。毎食直前に超速効型インスリンの皮下注射を行い、就寝前に持効型溶解インスリンの皮下注射を行うことが多いです。皮下にカテーテルを留置して持続的にポンプでインスリンを注入する治療も選べます。もちろん食事療法や運動療法も重要で、最近では一部の内服薬も用いられるようになり、血糖推移の安定化に有効であることが知られています。
一方、2型糖尿病では、ごく一部を除いてインスリン分泌は枯渇していませんので、食事療法と運動療法のみで薬物療法を実施しなくてもよい場合も多くあります。
まず、食事療法では、分類ごとに適切な量を適切なタイミングで摂取することが大切とされてきましたが、最近では糖質制限や高たんぱく食、地中海食、間歇的絶食など、科学的知見に基づいて継続しやすい方法が考案されています。患者さんの日常生活のリズムに合わせた柔軟な食事療法の選択ができる時代になってきています。
また、著しい高血糖や心肺機能の低下など運動療法の禁忌にあたる兆候がなければ、運動療法を実施することがとても重要です。運動療法は骨格筋や脂肪組織におけるインスリンの働きを改善させると考えられています。従来から1回30分程度の息がやや弾む程度のジョギングやウォーキングなど有酸素運動が勧められてきましたが、現在では簡単なウェイトトレーニングなどによる骨格筋の減少(サルコペニア・フレイル)の予防も有効と考えられています。
食事療法や運動療法を実施しても十分な改善が得られなければ、薬物療法も併用して改善が得られるよう取り組みます。
ただし、血糖降下薬は非常にたくさんの種類があり、日本糖尿病学会の推奨するアルゴリズムも参照して、患者さんのライフスタイルを伺いながら、患者さんごとに最も適切なお薬を選びます。
つまり、インスリンを用いなければ治療できない状態ではないことを確認したら、BMI(ボディマスインデックス、身長と体重から計算される体格の指数)や、そのほかの患者さんの情報から分析して、先述したインスリン分泌不足とインスリン抵抗性のどちらが主たる病態であるのかを考えます。また、それぞれの薬剤により出現しやすい副作用を考慮したり、またそれぞれの薬剤で血糖降下以外に得られるいい作用を考慮したりして、患者さんそれぞれに最もあう薬剤がどれなのか検討します。
従来からインスリンのような皮下注射の治療は経口薬で効果不十分な場合にトライする治療、というイメージが強かったと思われますが、最近ではインスリンだけでなく後述するGLP1受容体作動薬も含めて、かなり前向きに選択するケースが多くなってきています。
インスリン療法は経口薬で改善が不十分な場合に用いるばかりではなく、早期に導入して早期に目標を達成し、十分改善したら早期に終了する、といった糖毒性解除を重視した利用の仕方もあります。近日中には週に1回だけ注射すれば1週間血糖降下作用をもたらすインスリンも使えるようになります。
また、皮下注射の糖尿病治療薬で最近最も注目されているのがGLP1受容体作動薬、GLP1・GIP受容体作動薬という分類の治療薬です。高血糖のときだけインスリン分泌を促して血糖降下をもたらす薬剤として開発されましたが、現在最も注目されているのが減量(体重減少)作用で、実際肥満症の治療薬としても用いられています。これらは週に1度だけ皮下注射すればよいという簡便さもあり、一時期入手困難になるほど注目されています。
治療の成果は1―2か月の平均血糖の指標であるHbA1cを見て確かめますが、簡易血糖測定器を用いて、指先の少量の血液を用いて血糖測定することでも確認できます。最近では非常に細いカテーテルを皮下に置き、いつでも血糖を知ることができるようになっています(CGM:持続血糖モニタリング、商品名としてはフリースタイルリブレ2™(アボット社)、デクスコムG7™(デクスコムジャパン社))。当院でも取り扱い、皮下注射の治療をしていれば、多くの場合に簡易血糖測定器やCGMは保険診療の範囲でサポートされます。